労務管理

労働災害の発生

労働災害の発生

使用者は、労働者を雇用し企業としての仕事をしてもらうことで、その結果として利益を得ることができるという立場にあります。そこで、業務の中で発生するものについては、利益だけでなく責任についても企業が負うことが公平であるとの考えから、労働者が仕事に従事する中で怪我をした場合には、使用者である企業が一定の責任を負うことになります。
この業務の中で発生する負傷や疾病、死亡事故などを、一般に労働災害といいます。この労働災害が発生した場合には、企業は具体的にはどのような責任を負うことになるのでしょうか。

使用者の義務・責任

そもそも、企業には、労働者との間の労働契約に基づいて、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮をするという法的義務が課せられています(安全配慮義務。労働契約法によるもの)。
そのため、企業は、仕事に用いる施設や設備、職場内の組織について、十分な管理を行わなければなりません。
よって、仮にこの義務に違反した結果、労働災害が発生し、労働者に損害が生じてしまった場合には、労働者に対してその損害を賠償する義務を負うことになるわけです。

労災保険について

この本来であれば企業が自ら賠償しなければならない損害賠償について、労災保険に加入している場合には、企業に代わって国から労災保険による給付がなされます。
労災保険とは、業務が原因で、労働者がケガ・病気・死亡した場合(業務災害)や、また通勤の途中に事故に遭った場合(通勤災害)などに、国が使用者たる企業に代わって給付を行う公的な制度のことです。
労災保険については、労災保険法に定められており、基本的に労働者を一人でも雇用する企業には、加入義務があります。ここでいう「労働者を一人でも雇用する雇用する」場合とは、正社員に限らず、パート労働者やアルバイトを雇用する場合も全て含みますので、注意してください。

労災保険の具体的な給付内容

この労災保険においては、業務上の怪我、疾病などの労働災害が生じてしまった場合、行政が以下のような具体的な保険給付を行うことになります。

療養補償給付・療養給付

労働者が業務災害や通勤災害によって、ケガまたは病気となり、治療を受けた場合、その治療にかかった費用が給付されます。

休業補償給付・休業給付

休業補償給付・休業給付とは、業務上のケガや病気の治療のために休業したときに、賃金の補償として平均賃金の60%までの金額が給付されるものをいいます。
ただし、支給が開始されるのは、休業の4日目からとなります。

傷病補償年金・傷病年金

労働災害によるケガなどの治療が1年6か月を経っても終了しない場合、そのケガなどの程度に応じて、休業補償給付・休業給付に代えて傷病補償年金・傷病年金が支給されます。
なお、この場合でも、治療に必要な療養補償給付・療養給付は継続して支給されます。

障害補償給付・障害給付

労働災害によるケガ等の治療を受けたにもかかわらず、後遺障害が残ってしまう場合があります。
この後遺障害については、その程度に応じて障害補償年金・障害年金が支給されます。

その他の給付など

その他に、労働災害によって労働者が亡くなった場合などには、遺族補償給付や葬祭料などについても、労災保険から支給されます。

ただし、労災保険で全額の補填はされない

もっとも、上記のような労災保険による給付がされた場合であっても、企業には未だ労働者に対して損害を賠償する義務が残ります。
なぜなら、労災保険の給付は、労働者の損害の全てを補填するわけではないからです。

具体的には

治療費

治療費については、労災保険から支給されることになるため、企業としては負担せずに済みます。

休業損害

休業損害については、労働者が治療を受ける期間中に、仕事を休むことで給料を得られなくなった場合、この得られなくなった給料相当額が損害となります。
そして、先にご説明したとおり、労災保険では、その60%までしか支給されませんので、残りの40%については、企業が賠償すべきことになります。

慰謝料および後遺障害慰謝料

労働者の精神的な損害として、ケガ等についての慰謝料や、後遺障害が残ってしまった場合の後遺障害慰謝料があります。
これら慰謝料については、労災保険からの給付はありませんので、使用者が損害を賠償すべきことになります。

後遺障害による遺失利益

さらに、労働者に後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害によって労働能力が失われることで、本来なら稼ぐことができたであろう給料を稼げなくなってしまうことに対する賠償が必要になります。これを逸失利益といいます。

この逸失利益については、後遺障害の等級に応じて定められている労働能力喪失率を基礎収入(事故前の年収あるいは平均賃金)に乗じ、就労可能年齢とされている67歳までの減収分の合計が損害となります。
これについては、上記のとおり労災保険から障害補償年金が支給されますが、あくまで損害全体のうちの支給された分のみが損害の補填として認められるに過ぎないため、企業は残りの全額という大きな金額を賠償することになります。

安全対策の徹底を

このように、労働災害が発生し、労働者に損害が生じた場合、その中でも特に後遺障害が残るような大きな怪我を負ってしまったような場合には、企業が安全配慮義務を尽くしていたといえない限り、大きな損害賠償義務を負うことになります。
そのため、従業員の労働時間の管理や、健康診断の実施とその結果に基づく業務の調整など、労働者の心身の健康に関する事柄についても、企業には労働災害が発生しないよう細心の注意を払った具体的な事前策を取ることが求められています。