労務管理

使用者責任

使用者責任とは

故意又は過失によって、他人に損害を与えた場合には、加害行為をした本人が賠償責任(不法行為責任)を負うのは当然です。
しかし、その者が会社の従業員であった場合には、その者だけではなく会社が賠償責任(使用者責任)を負う場合があります(民法715条)。
民法715条は、会社や事業主などの使用者が、その事業のために従業員を使用していた場合に、その従業員が「その事業の執行について」第三者に損害を加えたときは、使用者にその損害を賠償する責任を課しています。逆に言うと、「事業の執行」と無関係に第三者に損害を加えた場合には、使用者は責任を負わないということになります。

例えば…

営業に従事していた従業員が、クレームをつけた顧客に腹を立てて殴ってしまい怪我を負わせたという場合

この場合、その暴行=不法行為は、会社の営業という事業の執行についてなされたものですので、会社はその被害顧客に対して使用者責任を負うことになります。これに対し、休日に従業員が家族で旅行に出掛け、その宿泊先の旅館で他の宿泊客と喧嘩になり暴行を加えたという場合には、その暴行行為は、明らかに会社の事業の執行とは無関係になされたものですので、会社は使用者責任を負いません。
ただ、それぞれの具体的な事案では、判断が難しい場合も多く、簡単に結論を出すことができないケースも多くみられます。以下では、問題となるケースを挙げてご説明します。

取引行為の場合

会社の事業に属する一定の職務を行う権限を持っていた従業員が、その権限外の行為を行い、取引先に損害を与えたという場合、その行為は従業員の権限外の行為ですから、会社は使用者責任を負わないとも考えられます。
しかし、判例は、取引の外観を信頼した第三者を保護するため、従業員の職務そのものには属しないが、外観上職務の範囲内のように見える行為については、使用者責任を認めています(外形標準説)。ただし、第三者が、その従業員が職務権限外の行為をしていることを知っている場合、あるいは、知らないことについて重過失がある場合には、第三者を保護する必要がありませんので、会社の使用者責任を否定しています。
たとえば以下のような判例があります。

銀行の預金募集の業務に従事する銀行員が、成績を上げるため、権限がないのに定期預金契約を締結し、契約者が銀行に使用者責任を追及していた事件について、利息が極めて高く、銀行所定のものでない領収証が交付された等不審に思うべき点はあったが、契約者は銀行員の古くからの知人であり、数年前から銀行員を通じて銀行と取引をしていた等の事情があるため、銀行員の行為を職務権限内の適法な行為と信じたことについて重大な過失はないとして、銀行の使用者責任を認めた判例があります(最判昭47.3.31)。

楽器等を製造販売する会社の一営業社員が、権限なく卸小売会社とリベート契約を締結し、卸小売会社が製造販売会社に使用者責任を追及していた事件について、リベート契約締結が営業社員の職務の範囲内の行為に見えたとしても、卸小売会社は規模が大きく、業界についてよく知っていたのだから、リベート契約の内容が通常の価格から大きく外れていた以上、製造販売会社に確認をとるべきだったにも関わらずそれをしておらず、重大な過失があったとして、使用者責任を否定した判例もあります(東京地判平2.1.22)。

交通事故の場合

判例は、交通事故の場合にも、外観上職務の範囲内のように見えるかを基準に、使用者責任の有無を判断しています(外形標準説)。
このため従業員が、会社が所有する自動車や、会社が保管していた自動車で事故を起こした場合には、私用で運転した場合であっても、会社の使用者責任が認められる傾向にあります。
一方で、従業員が自家用車で事故を起こした場合には、会社の使用者責任は認められにくいが、認める裁判例もあります。
例えば以下のような判例があります。

車の販売課員として普段から仕事の際に会社所有自動車を運転する従業員が、無断で会社所有自動車を運転して帰宅しようとしたところ、事故を起こした場合に、会社に使用者責任を認めた(最判昭39.2.4)。

自家用車による通勤が禁止され、出張で使用するにも許可が必要とされていた会社の従業員が、出張の帰途に、許可を得ずに自家用車を運転して事故を起こした場合に、会社の使用者責任が否定された(最判昭52.9.22)。

喧嘩の場合

判例は、被用者が、事業の執行行為をきっかけに、これと密接な関連がある行為によって加害行為をした場合に、使用者責任を認めています。
たとえば以下のような判例があります。

配管工として現場で作業していた従業員同士が、ノコギリを渡すときに投げて渡したことから喧嘩になり、殴る蹴るの暴行を与えた場合に、この暴行が、事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって加えられたものであるとして、会社の使用者責任が認められた(最判昭58.3.31)。

その他

セクハラや労災に関しても、被害者の上司等を被用者、会社等を使用者として、使用者責任が認められます。
たとえば、以下のような判例があります。

上司が部下に対し、終業後の飲み会の2次会で、仕事の話と絡ませながら、嫌がっているにも関わらずキスをする等のセクハラ行為をしたため、被害者である部下が会社に対して使用者責任を追及した事件で、上司の行為は、職務に関連させて上司たる地位を利用して行ったものであるから、事業の執行についてなされたものといえるとして、会社の使用者責任を認めた(大阪地判平10.12.21)。

雇用関係がなくても使用者責任が認められる場合

通常、使用者責任を負う者は、不法行為をした者と雇用関係にある会社や個人事業主ですが、判例は、雇用関係がなくても実質的に指揮監督する関係にあれば使用者責任を認めています。
例えば、

土木工事において、下請業者の従業員がクレーン作業に従事していたところ、その操作を誤り他の作業員を負傷させる事故が発生したという場合

元請業者の現場責任者が現場に常駐し、作業について指示を与えていたような場合には元請業者について使用者責任が認められることになります。
なお、派遣関係にある場合にも、派遣労働者の派遣先の仕事に関係する不法行為については、派遣元会社とその従業員との間には雇用関係はありますが、派遣元会社がその従業員に対して指揮監督をしていた等の事情がなかった以上、派遣元会社が使用者責任を負わないとされています。
要するに、形式的に雇用関係にあるかどうかが問題なのではなく、指揮監督関係にあったか否かが使用者責任を認めるかどうかの判断基準になるということです。
なお、使用者責任を定める民法715条1項の但し書には、使用者が被用者の選任・監督について相当な注意をしていたときには、使用者責任を負わないとされていますが、実際に使用者にこのような免責を認めた判例はほとんどありません。

使用者から被用者への求償権

使用者が使用者責任に基づき被害者に損害の賠償をした場合、使用者は従業員に対して、自分が代わりに支払った賠償金を支払うよう請求できます。
請求できる範囲について、判例は、事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損害の分散についての使用者の配慮の程度そのほか諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当な範囲としています。
要するに、ケースによって判断するということですが、従業員に対して必ずしも全額を請求できるものではないということです。