後遺障害3(後遺障害逸失利益)

後遺障害3(後遺障害逸失利益)

前回、交通事故訴訟において、「後遺障害」が認められる場合に請求できる損害費目について、説明しました。
今回は、その費目の一つである後遺障害逸失利益について、説明します。

後遺障害逸失利益ってなに?

後遺障害逸失利益とは、「被害者にとって、交通事故に遭わなければ本来稼ぐことができたはずなのに、事故の後遺障害によって稼ぐことができなくなってしまった利益」のことをいいます。
ただ、後遺障害逸失利益をこのように考えると、これは将来における仮定の話ということになるので、実際にどう計算すれば良いのか見当がつかないと思うかもしれません。
かつては、裁判の場においても、様々な計算方法が主張されていて、各地の裁判所や裁判官ごとに異なる計算方法を採用されていたことがありました。そこで、平成11年11月に東京・大阪・名古屋の地方裁判所の各交通部(主要都市の裁判所では、事件の分野毎に担当する裁判官を分けており、交通事故訴訟は「交通部」と呼ばれる部署に配属された裁判所が担当しています)に所属する裁判官が協議した結果、逸失利益の計算方法について定めた共同提言が公表され、以後はおおむねこの内容に沿って計算されるようになりました。
よって、現在の実務では、次の計算式によって、後遺障害逸失利益を計算します。

後遺障害逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入とは

では、この計算式を順に説明します。
まず、基礎収入額とは、簡単に言えば、被害者の本来の収入額(事故に遭わなければ稼ぐことができたはずの収入額)のことを指します。そして、先ほど説明した共同提言では、基礎収入額は、原則として事故前の実際の収入額(年収)によるとされます。
もっとも、事故の被害者が、例えば働き始めたばかりの若年者やまだ働いてすらいない学生や児童の場合、事故に遭った時点の収入水準が低かったりまたは収入自体がないことも多いです。このようなケースにおいて、これをそのまま基礎収入額として計算することは、後遺障害逸失利益が将来の収入も考慮して計算されるものということからしても、やはり不適切といえるでしょう。

賃金センサスを利用する

そこで、このような場合は、厚生労働省が公表している賃金センサス(毎年実施されている「賃金構造基本統計調査」の通称のことをいいます)における全年齢平均賃金(または学歴別平均賃金)を基礎収入額とします。
なお、賃金センサスを利用するのはこのような場合だけでなく、事故前の実際の収入額が賃金センサスの平均賃金より低額だが将来平均賃金以上に収入を得られると認められる者や、増額される事故前の実収入額がない失業者、記録がない等の理由で実収入額が不明な者についても、この賃金センサスの平均賃金を参考に基礎収入額を認定します(平均賃金の金額をそのまま認定することもあれば、同金額の何割かに限定して認定することもあります)。

労働能力喪失率について

労働能力喪失率については、基本的には「後遺障害等級および労働能力喪失率表」というものに従って、被害者の認定された後遺障害の等級によってその割合が決まります。
ただ、被害者の具体的事情を考慮した結果、被害者が後遺障害によって実際に喪失した労働能力が「後遺障害等級および労働能力喪失率表」で定められた割合とは異なると認められる場合は、その現実の喪失割合で計算されることになります。
この判断において考慮される具体的事情は、主に被害者の職種、年齢、性別、障害の部位・程度、実際の減収の有無・程度等が挙げられます。

後遺障害等級表・労働能力喪失率表の割合と異なるのはどんな場合?

「後遺障害等級および労働能力喪失率表」で定められた割合とは異なる労働能力喪失率が認められることが比較的多いケースとしては、主に醜状障害がある場合があります。醜状障害とは、顔や手足等の日常的に露出する部分に傷跡が残ってしまった場合に認められる後遺障害のことをいいます。
この醜状障害の場合には、傷跡が残るといっても、必ずしも傷跡が残った箇所が動かせなくなったり、身体能力が低下したりするわけではありませんので、現実に労働能力が低下したか否かを慎重に判断する必要があります。
詳しい説明はここでは控えますが、実際の裁判では、被害者が女性や児童である場合や、営業職等の人前に出る場面が多い職種である場合、または傷跡が目立つ箇所に残ってしまった場合等には、労働能力喪失率が認められやすく、場合によっては「後遺障害等級および労働能力喪失率表」の割合よりも大きく認められることもあります。

ライプニッツ係数とは

ライプニッツ係数とは、本来1年ごとに継続的に得られる金銭をある時点に一括でもらう場合に、その一括で受け取る場合の金額をどのように計算するのが適当なのか、という観点で算出された数値をいいます。
この数値は、金銭を得られる本来の期間(後遺障害逸失利益においては、後遺障害によって労働能力を喪失する期間がこれに該当します)がどれだけなのかを元に計算することができますが、その計算式が非常に複雑なので、実務では専用の表に当てはめて算出します。

労働能力喪失期間がどれくらいなのかを先に割り出す必要がある

専用の表に当てはめてライプニッツ係数を算出するためには、先に、今回の被害者の労働能力喪失期間は何年なのかを明らかにする必要があります。
この点については、実務上は、事故当時の被害者の年齢から就労可能年限(現在は67歳とされています)までの年数(事故時に既に被害者が67歳近くまたはそれ以上の高齢者の場合は、厚生労働省が公表する簡易生命表から算出される平均余命の2分の1とされます)とされるケースが多いです。
ただし、被害者が後遺障害によって実際に労働能力を喪失した期間が就労可能年限までの年数とは実際に異なる場合は、その現実の喪失期間でライプニッツ係数を計算することになります。

むち打ちの場合は例外

もっとも、このような基準で、労働能力喪失期間を決めることができない場合もあります。それが、いわゆるむち打ち損傷によって神経症状が残った場合です。むち打ちについて一般的なケガによる神経痛とは異なる取り扱いがされている理由は、一般的なケガによる神経痛については検査で客観的に診断できることが通常ですが、むち打ちについては客観的に診断できないことが多い点にあります。
例えば、通常のケガとして、事故で骨折した骨が変形したまま癒着し、その変形部分が特定の神経を圧迫し、神経痛が発生している場合は、レントゲン検査等により骨の変形等がわかり、これが神経痛の原因であると判断できます。そして、この骨の変形が戻らない限り神経痛は発生し続けるため、基本的には、就労可能年限までの労働能力喪失期間が認められます。
しかし、むち打ち損傷による神経症状では、このような客観的な検査等でわかる原因がなく、被害者の自覚症状でしか確認できないことが多いわけです。このような自覚症状からしか診断できない神経症状については、時間の経過と共に軽減されるかまたは慣れていき、最終的には5年から10年程度で労働能力に与える影響がなくなると扱われる傾向にあります(つまり、労働能力喪失期間は5〜10年程度と扱われる)。

まとめ

以上のとおり、後遺障害逸失利益は、原則的には、それぞれの項目ごとに決められた表などから得られる数値を使って計算されます。
しかし、この算出には例外も多く、それぞれの被害者において、表とは異なる収入、労働能力喪失率、喪失期間が認められる場合には、現実の数値を優先して計算されることになります。
万が一、交通事故により後遺障害を負ってしまった場合には、この原則的な計算方法を試すと共に、自分が例外的な場合に当たらないかをよく考えて、金額を決めることが望ましいといえます。